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Everlasting Blue~前章~
2008/11/20
title:Everlasting Blue~前章~
author:高望さん

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ギリシアの首都、アテネの奥地。
小高い山に、女神の住む聖域サンクチュアリが存在する。
遠くエーゲ海を見渡す絶好のロケーション。
サンクチュアリは典型的な地中海性気候に恵まれて、カラリと晴れた日が多い。
今日もまた、青い海はどこまでも青く、水平線は空の青からピンとへだたれ横たわる。
久しぶりに眺める景色は、やはり美しかった。


ムウはこのサンクチュアリと、女神アテナを守護する聖闘士(セイント)だ。


サンクチュアリの最も聖なるアテナ神殿、その最前線の白洋宮を預かる黄金(ゴールド)聖闘士。
聖闘士の中でも最高峰の力を持つの一人で、強大な超能力も有している。
だが、もっとも特筆すべき点がある。
彼はこの世でただ一人、聖衣(クロス)の修復ができる男だ。
聖闘士の身を守る聖衣はただの防具ではない。
聖衣は、生きている。
生きているからこそ自己修復能力を持ってはいるが、あまりに壊滅的なダメージを受けるとその限界を越える。
ムウはそんな傷ついた聖衣を修復する技術を持っていた。


彼は常時、インドと中国の国境近くにあるジャミールに住む。
ジャミールは山深い地で、雲や霧に囲まれて視界もそれほど広くはない。
サンクチュアリの自分の宮にくるたびに、ムウは海を眺めていた。
どこまでも広がる空と、海。
太陽が眩く輝き、からっとした風が吹き抜ける丘。
ジャミールとは違う、陽に明るい世界だ。
女神の住まう地として相応しい、美しい大地。
今もまた、ムウは海を眺める。


その背には、アテナより授けられた黄金聖衣があった。滅多と身に付けることはない。
この聖衣をつけたのは………つい先日、教皇アーレスに戦いを挑んだ青銅聖闘士の少年たちを迎えた時だった。
彼らはこのサンクチュアリに辿り着くまで、すでにアテナのために戦い、傷つき、聖衣もボロボロになっていた。
命をかけた戦いだった。
アテナと、アテナの愛する世界を守るため、彼らは若い命を戦いに捧げていた。
ムウはアテナを守る同じ立場にあって、その戦いをただ黙って見ているだけのことは辛かった。
できれば少年たちとともに、このサンクチュアリに蔓延した悪と腐敗を打破したかった。
だが………敵は、同じ黄金聖闘士だった。


黄金聖闘士同士が戦うことは、ひどく危険だ。
最強の力を持つもの同士が本気で戦えば、このサンクチュアリそのものを壊滅させるだろう。
手出しは、できない。彼らにすべてを任せるしかなかった。
少年たちの正義と力を信じるしかなかった。………故に、自分のできる唯一のことで、彼らを手助けした。
それは彼らの聖衣の修復であり、補強だった。
十二宮の黄金聖闘士相手に、勝ちのびるなど至難の技。
実力は神と人ほどに開きがある。
せめて彼らの身が少しでも無事なようにと、ムウは心血のすべてを注いで聖衣を修復した。
そして黄金聖闘士と戦うために、究極の小宇宙セブン・センシズを会得するように諭した。
少年たちはムウの言葉を胸に戦場を駆け、命をかけてアテナを救った。
彼らは、彼らの正義と愛するアテナのために、ついに勝利したのだ。


「フッ」
ムウは目を閉じた。
また、この景色ともしばらくお別れだ。
アテナの戻ったサンクチュアリは、この数日間大騒ぎだった。
ムウもその騒ぎの中に否応なく巻き込まれていたのだが、昨日にやっと落ち着いた。
これでジャミールに帰れる。
ギリシアからジャミールまで、ムウの力でもってすれば、ほんの一瞬の移動だ。


ジャミールの館に意識を集中し、まさに跳ぼうとした瞬間、
「ムウ!」
聞き覚えのある声が、その背中を呼び止めた。
振り返ると、長い黒髪の少年が立っていた。
走ってきたのだろうか、肩で息をしている。
「紫龍」
ムウは少年の名前を呼んだ。


ドラゴンの聖闘士、紫龍。


今回の十二宮の聖戦において、黄金聖闘士と戦った渦中の青銅聖闘士の一人だ。
ムウと紫龍は浅からぬ縁があった。
彼もまた、傷ついた聖衣を持ってジャミールを訪ねてきた聖闘士だ。
紫龍は自らの分だけでなく、同じ仲間であり、友であるペガサスの聖闘士、星矢の聖衣を持って現れた。
そのふたつの聖衣は、彼らが互いに戦った末に、完膚なきまでに破壊されていた。
もはや死していたと言ってもいい。
そんな聖衣は、いくらムウの腕を持ってしても修復することは不可能だった。


ただ一つの方法を除いては。
それは、死した聖衣に聖闘士の血を与えることだ。

聖闘士の大量の血によって、聖衣は生き返るのである。
生易しい量ではない。
命にかかわる量だ。
そして聖衣はふたつ。
紫龍には、まさに聖衣のために自分の命を渡すことになる。
だが紫龍は迷わなかった。
自分の両手首を切り、聖衣になみなみと血を注いだ。

ムウは、ひどく感心した。
友のために命すら惜しまない紫龍に、ひどく興味を抱いた。
今まで訪れたもので、そこまでの覚悟を持つ聖闘士はいなかった。
それだけではない、紫龍は仲間の命を救うために自分の目を潰し、また今回の聖戦でも命をかけて敵を倒した。
友のため、命を捨てられる。
それが自分の信じる正義のためならば、なおさらに。
まだ幼ささえ残す顔を、戦士に変えて戦う少年。
けれど、今ムウの目の前の紫龍は、14歳の年相応の、そして無防備な顔をしていた。


「どうしたのですか、紫龍」
ムウはわずかに微笑んでみせた。
紫龍はその問いに、しばし戸惑ったように表情を揺らし、
「ムウ………もう帰ってしまうと、沙織さんから聞いて」
軽く眉を寄せ、わずかに視線をそらせた。
「ええ。もうわたしの役目は終わりました。またジャミールに帰ります」
「ここには、ずっといないのですか」
ムウは軽く首を傾げる。
「確かにこの白羊宮を守護するのはわたしの務めです。ですが、アテナを守るのはわたし一人ではありません」
「ムウ………」
「あなたたちがアテナを守護してくれているから、わたしたち黄金聖闘士は、アテナのために世界中を守ることができるんです」
黄金聖闘士が守るのは、このサンクチュアリだけではない。
世界中のあちこちに散らばり、そしてその地でアテナの願う平和な世界を守っていく。
「そうですか………いえ、そうですよね」
紫龍は気落ちした様子で一人ごちる。


「それで、どうしたのです」
「え?」
「わたしに何か御用だったのではないのですか?」
「………あ、いや。その………」
途端、紫龍はひどく動転したように口ごもる。
どうも、何か重要な用事があって訪ねてきたわけではなさそうだ。
「その………もう帰ると聞いて………」
「………?」
「いろいろと礼を言わなくてはと思って」
「あなたにお礼を言われるようなことは、何もしていませんよ?」
「しかし!」
唐突に紫龍は語気が強くなる。
「星矢たちはあなたのお陰で戦えた! 聖衣を修復してもらい、セブンセンシズを教えてもらい、だから戦えた!」
「………」
「星矢たちは俺の大切な友! その友のことで俺が礼を言うのはおかしくないと思います!」


ムウはしばらく紫龍の顔を見つめ、吹きだした。
「………ムウ?」
「すみません、紫龍。あなたがあまりに可愛かったもので」
「………はぁっ!?」
紫龍は鳩が豆鉄砲を食らったように仰天した。
星矢たちでも見たことのない顔だった。
「失礼。笑ってしまって」
「………」
紫龍は呆然とムウを見つめたままだった。
よほど、驚いたのだろうか。


ムウは楽しくなった。
思ったより、紫龍はまだずっとずっと子供だった。
意外だった。
なんて素直なんだろう。


「名残を惜しんでくれて嬉しいですよ、紫龍」
呆けたままの紫龍に歩み寄る。
あんなに大人びて見えたのに、あんなに聖闘士として死闘を繰り広げていたのに、なんと幼いことだろう。
興味深い。
くるくると、こんなに表情豊かとは思わなかった。
以前にも増して興味を引かれてしまう。


ふと、悪戯心が起きる。
ムウは紫龍の両手をそっと掴み、持ち上げる。
紫龍はじっとムウを見上げていた。
「ムウ?」
「紫龍。無事でよかった。また会いましょう」
ムウは紫龍の、意外なほどに細いその指先にふわりと口付けた。
貴婦人を敬うような、羽のようなキスを。
「なっっ!!!???」
紫龍はさらに仰天し、耳まで顔を染めた。
「挨拶ですよ」
ムウはちょっと意地悪く笑い、手を離す。
「では、ごきげんよう。紫龍」
にこやかな声音で告げ、ムウは紫龍の前から姿を消した。





一瞬で住みなれたジャミールの館に着く。
霧に閉ざされた、深山幽谷の秘境。
また、ここで弟子の貴鬼との静かな生活がはじまる。
二人だけの、修行に明け暮れる生活が。
それは世界が平和であり、戦いのない良い生活だ。


だが。


また、あの黒髪の少年と会うような気がする。
それも近々に。
そんな予感はまるで確信だった。
そしてもし会えたら、また紫龍をからかいたくなる自分がいるんだろう、というのはもっとはっきりした確信だった。
どうして自分がそんな風に思うのかはわからなかったけれど、ムウはそこで考えるのをやめて、館に向かって足を踏み出すのだった。


to be continued...

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